裁判例に学ぶ嘱託社員の賃金

名古屋自動車学校事件(令和2.10.28判決)は、嘱託の教習指導員2名が、定年後の賃金が現役時代よりも低いのは同一労賃に反して違法として争った事件です。指導員たちは、定年前の所定内賃金が月30万円、賞与年50万円だったのが、嘱託になって56%相当の待遇になりました。名古屋地裁は、基本給・賞与が6掛けを下回った部分は違法として差額の支払を命じました。法律論では、6掛けの根拠が不明という批判があります。しかし、時枝はまず「嘱託月給<新卒初任給」という設定に無理があったと考えます。「嘱託社員は子供も就職したし、住宅ローン返済も終わったのだから、このくらいの給料でも生活できるだろう」という「生活給」の考えで待遇を決めようという声を聞くことがあります。しかし「嘱託の最低賃金は新卒初任給」という感覚は重要です。

次に、この事件では定年前・定年後で社員の職務内容(業務、責任)も人事異動の有無・範囲も何ら変わりはなかったという点です。中小企業ではよくある例ですが、会社の負け裁判になったことに注意が必要です。

さらに、同一労賃裁判例の中で基本給の低下を不合理とした点も注目です。この会社の賃金体系は、基本給+敢闘賞(教習時間数歩合)です。例えば新卒なら、基本給11万円+敢闘賞(想定)9万円=20万円です。基本給は平均14万円、定年退職前で18万円です。社長が「教習指導員は教習してなんぼだ」と考えていたからか、賞与・退職金への連動を考えて抑えていたのか判りません。しかし、裁判所では基本給が50%以上減になったことに注目して違法としました。基本給を低くして重要視しなかったことの落とし穴として学ぶべき例です。