時枝慎一郎の新著(共著)『就業規則の見直しと運用の実務』がでました!
就業規則で使う言葉をどう決めていますか?
「うちの会社の就業規則は、実態と合ってないんだよな」
「会社に何かあったときに、対応できるのかな…」
社長さんや総務部長さんから、よく聞く言葉です。
就業規則の作り方の本は、何冊も出ています。
Webを検索すれば、法改正の規定例までダウンロードできます。
規定例を自分の会社用に直すとき、社内でどんな議論をしていますか?
「この表現はキツ過ぎるから、もう少しやわらかくしよう」
「こことあそこの良いとこ取りをすると、こんな感じかな」
すると、それらしい就業規則の姿になってきますね。
弁護士・社労士は何を知っているのか?
弁護士や社労士も就業規則の見直しを頼まれることがあります。
法律に関する知識に期待していただいてのことと思います。
もちろん、法律を踏まえた就業規則であることは大事です。
それ以外に弁護士や社労士が社長さんよりも知っていることは、実は一つしかありません。
それは、「一語の重さ」です。
専門用語でも何でもない一語で、会社の責任が、支払額が、決まるということです。
実際にあった話です。
ある会社の正社員就業規則には、こう書いていました。
「この規則は、全従業員に適用する。ただし、正社員以外の者について別の定めをしたときには、その定めによる」
専門用語は何も使っていません。
そして、特に問題がある表現には見えません…。
後にこの会社は、定年後再雇用の嘱託社員から訴えを起こされます。
「定年前も定年後も仕事内容や責任はまったく変わらない。それなのに給料がこんなに下がるのは不合理だ」
裁判ではこのような判決が出ました。
「嘱託社員の給与規程はあるものの、下げ方が不合理なので無効である。
給与規程が無効なら、正しい給与はいくらと考えるべきか。
それは、『全従業員に適用する』と書いてある、正社員の給与規程で決まる」
そして、この会社は、定年前の給料と同額を払えという判決を受けたのです。
就業規則の中のたった一つの条文が命取りになったのです。
もめごとが起きると、社内だけで解決できないのが今の実情です。
解決が社外となると、口で言うことより紙に書いてあることが重んじられます。
雇用契約書も大事です。
そして、雇用契約書よりも上位扱いされるのが就業規則です。
条文が何十とある就業規則の一語一語を選んで決めていく。
「一語の重さ」を知ったうえで、あれこれと議論して言葉を選ぶ。
弁護士や社労士がこだわっているのは、考え抜いた言葉選びです。
我々が就業規則を改訂するときのナマの議論の一部をお見せすることで、各社様の言葉選びに役立てば幸いです。
特定社会保険労務士 時枝 慎一郎