「育休中は昇給なし」はありなのか

 京都にある大病院の話です。男性パート看護師が「3か月育休を取ったら職能給の昇給がなかったのは違法」と勤務先病院を訴えました。

 この病院では、基本給は、本人給(年齢給。45歳で停止)、職務給(医療資格による定額)そして職能給から成ります。問題の職能給は、SABCDの5段階で毎年査定されます。

 そして、育児休業規程にはこうありました。「昇給については、育児休業中は本人給のみの昇給とします。」実際には、前年度に3か月以上の育児休業を取得した職員には、翌年の定期昇給で職能給を据え置く運用をしていました。

 京都地裁は、病院が職能給を据え置いたのは違法とまでは言えないと判断しました。しかし、大阪高裁は、育休以外の理由で休んだ場合の対応を病院に尋ねました。病院は、欠勤以外すなわち遅刻・早退、有給休暇・慶弔休暇、労災休業は不就労扱いしていないと説明しました。すると高裁は「病院は、他の休暇・休業よりも育児休業を不利益に取り扱っている」「病院の運用では、育休を3か月取得した者を昇給せず、育休を2か月と28日取得して遅刻・早退が2日分あった者には昇給するということになり不合理」として、病院に看護師の給与・賞与差額2年分89,040円の支払いを命じました。

 昇給査定において遅刻・早退、有給休暇・慶弔休暇、労災休業を付不就労期間に含めないという病院のおおらかな運用があだになった感があります。実務では、育児をする社員の待遇に違法がないよう注意するのはもちろんですが、育休をとらない独身社員やお子さんのいらっしゃらない既婚社員との公平感をもたせる打ち手も必要ではないでしょうか。