残業代込み?会社選びの手掛かりに(2016年3月8日東京新聞より)

初任給の内訳 就活本が公開

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来春卒業予定の学生の就職活動が、今月から始まった。誰しも若者を使いつぶす「ブラック企業」は避けたいが、最近は残業代込みの給与を表示して高給と誤解させるような求人広告で人材を集める「求人詐欺」も取り沙汰される。こうした中、就活のバイブルともいわれる「就職四季報 総合版」(東洋経済新報社)は企業選びの参考として、最新の二〇一七年版から初任給の内訳を新たに盛り込んだ。専門家は「学生が会社を見極める手掛かりになる」と評価する。 (中沢誠)

就活生にとって、就職先を選ぶ指標として初任給は関心の高い項目の一つ。そこに目をつけて、初任給の内訳をあいまいにして誇大な求人広告を出す企業もある。

目立つのが、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に盛り込んで支払う「固定残業代」を悪用したケースだ。就活サイトの求人広告などに「残業代込み」と記載しながら残業時間や金額を明示しなかったり、そもそも残業代込みの給与額であることを募集時に隠していたりする。

NPO法人「POSSE」によると、人材不足を背景に、ここ一、二年で「求人詐欺」は急増しているという。求人内容にひかれて入社してみると、低賃金で長時間労働を強いられたあげく、過労で倒れたというケースもある。

「ブラック企業対策プロジェクト」事務局長の嶋崎量(ちから)弁護士は、「人生の大きな節目に公正な会社選びができているとは言い難い」と訴える。

若者の雇用悪化を受け、企業選びの有効な情報源として注目が高まっているのが就職四季報だ。これまで離職率や平均残業時間、有給休暇消化率など企業が公表したがらないようなデータを掲載してきた。

一七年版からは初任給の内訳も掲載。アンケートをもとに大手を中心に七百四十五社のデータを集めた。例えば-A社【初任給】二十三万円【内訳】基本給十七万円、住宅手当一万円、残業手当五万円。B社【初任給】二十三万円【内訳】基本給二十三万円-といったように、初任給が同じでも基本給で比べると違いが見えてくる。

就職四季報の森智彦編集長は「いろんな要素で給与が構成されていることを客観的データで示せば、学生の企業を見る目も変わる。就活でも自分で知り、企業を見極める目を持つことが重要では」と話す。

◆求人トラブル後絶たず

求人をめぐるトラブルは後を絶たない。厚生労働省によると、ハローワーク取り扱い案件でも求人票が実際の労働条件と違うという苦情は年々増えており、二〇一四年度は全国で一万二千件を超えた。中でも「求人内容より低い賃金で働かされた」などの賃金に関する苦情が多い。

学生が敬遠する「ブラック企業」は、労働条件をごまかして求人するケースが目立つ。求人の偽装によって、学生は適切な企業選びができなくなり、過酷な労働に追い込まれる可能性もある。

相次ぐ求人トラブルに、厚労省も対策に乗り出した。昨年九月成立の青少年雇用促進法に基づき、給与に残業代を含めた固定残業代を導入する場合、企業は募集時、基本給や残業時間などを明示するように指針を定めた。今月からは、学生に求められたら離職率や月平均の残業時間などの職場の情報を開示することを企業に義務付けた。ハローワークは、法令違反を繰り返す企業からの新卒求人を受け付けない。

「ブラック企業対策プロジェクト」は「国などの対策は不十分だ」として、固定残業代のチェックの厳格化や企業への取り締まりの強化を求めている。

(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016030890072349.html